2016年11月9日水曜日

トランプ勝利がサプライズとなった理由とこれからの世界経済予想

トランプ氏が米大統領選で勝利した。多くのメディアが「逆転」という表現でサプライズを伝える。デジタル大辞泉によれば、

ぎゃく‐てん【逆転】
[名](スル)
1 それまでとは反対の方向に回転すること。逆回転。「スクリューを逆転させる」
2 事の成り行きなどがそれまでとは反対になること。「形勢が逆転する」「逆転勝ち」

「逆転」とは「それまでとは反対の方向」を意味する言葉であり、大統領選で言えば「クリントン優勢」がそれまでの方向だったことになる。

しかしよく考えて頂戴。サーベイは有権者投票行動の縮図となっていたのだろうか?答えがNoだからこの結果になったのではないだろうか?そういう意味でこの結果は「逆転」ではなく、サーベイの失敗である。普通の政治学者は今回のサーベイに問題が潜んでいることに気づいていたと思う。実際に何人かの学者はそれを指摘していたしね。加えてメディアの一部も気づいていたんじゃないかな。気づいてても言えない立場にあったことは同情するけどね。

何度かコメントしたけどトランプ支持層は「既存政治不支持のミックスジュース」であり、それぞれの主義主張はバラバラだ。そして材料となるフルーツの種類は豊富。表現が悪いけど、、、多種マイノリティの寄せ集めであり、この一定比率には「声を大にしたくない」層が含まれている。だからサーベイの電話が来ても「態度未定」、「無視」という行動を取る。だからデータとして実態を反映しないのだ。

終わったことをくどくど述べているのは、この統計の妙を偉そうに解説したいからではない。このエラーがブレグジットに続き米国で発生したという事である。この動きはディテールは異なるかもしれないが、既存政治の恩恵にあずかれなかった層の存在が主因である。簡単に言えば「格差政策の負け組」であり、その層がどんどん増えているからこういう結果になったのだ。

この構造は「純金融資産保有額層別人口シェア」と整合的であるはず。少なくとも日本では同じような構造になっている。そして格差拡大を通じて知らぬ間に平均以下の人口シェアがどんどん増えるという構図は、世界中の資本主義国、準資本主義国で発生している。ちなみに日本は実質的に7割以上が平均以下なんじゃないか?


いつもの持論を交えて今回のトランプ勝利についてコメントしたい。

オイラは現在の資本主義は近い将来破綻すると考えている。世界GDPが物価上昇より速いスピードで拡大し続けている点で、これは「地球規模のバブル」と表現することもできる。このバブルを創出するために何をしてきたか?3度の産業革命を経て一見順調に見える世界的な経済成長も地球を1つの風船と考えた場合以下のように表現できる。

その風船は順調に膨らみ続けているように見える。蒸気機関の発明で機械工業化が進み生産性が飛躍的に向上した。そして石油、電気の普及に伴い大量消費時代に突入。しかし資源の偏在などから風船内では争いが起こり、しばしば戦争が発生し、短期的なスラックなどを経て風船は伸縮を繰り返した。その後IT革命に突入し全ての人が今まで触れられなかった情報にアクセス出来るようになった。当初は生産性の更なる向上により風船は健全に膨張したが、マネーレバレッジと情報レバレッジの同時進行で膨張速度が加速した。そしてとうとう風船に穴が開いた。これがリーマンショック(*1)である。当然風船は急速に小さくなった。しかし風船の縮小を受け入れたくない事実がある。世界的な政府債務と人口膨張である。そこで各国政府は財政と金融政策のアクセルを全開にして、風船の再膨張を試みているのである。もちろんこれは応急処置であり根本治療ではない。この穴を塞ぐものはない。唯一策は適度なレベルまで風船が縮小し、縮んだゴムを手繰り寄せて修復する事である。

オイラが「独り言」で資本主義やメディアに警鐘を鳴らし続けているのはこの考え方が根底にある。だから今回トランプ勝利はいいきっかけになるのではないかと考えている。それは風船が適度なレベルまで縮小する可能性があるからだ。

トランプは超保護主義を主張している。おそらく金融政策は緩和維持、財政も法人税主体に積極的。そういう意味でオイラの論点とは手段という意味で大きく異なる。しかし超保護主義は通商、防衛などを通じグローバルマネーのレバレッジを低下させる。すなわち風船を膨張から縮小に「逆転」させる可能性を秘めている。もちろんトランプの主張は、「保護主義で米国が失っていた富を取り返す」という事であり、風船内の空気を自国に集めることを狙っている。

一方クリントンは既存手法の継承を表明していたので、空気の抜けていく風船の中で金融政策と財政政策をフル稼働させて縮小を喰いとめる応急処置を続けるつもりだった。「クリントン勝利だったらFRBは12月に利上げしたはずだ」とか唾を飛ばすおバカさんには読んでいただかなくて結構。本稿はもっと長いスパンかつ世界規模の話だから。クリントンの政策であれば、近い将来金融政策と財政政策は破たんして風船は完全に萎んでしまうか、最終局面は制御不能になり破裂していたかもしれない。

だから米国が保護主義に舵を切ることで、第二次世界大戦以降に発生した烏合離散をもう一度やり直すというのであれば、風船の縮小、再拡大の時間を稼いだと考えることができる。この間に風船の穴を修復できれば最高のシナリオとなるのだが、それができなかった場合、地政学的な問題が限界に達し、風船内は戦争に発展する可能性がある。それを避けるのが国際政治であり各国が緊張感をもって米国と対峙することが重要である。それは冷戦後の緊張した外交史を紐解けばなんらかのヒントが見えるのではないか。


長文になってしまった。かなり乱暴な説明になったけど、米国大統領選は国民の半数以上が既存体制に不満をもっていることを明らかにした。そしてこの流れが世界中で発生していることを各国政府は熟考すべき。もちろんお馬鹿認定された世界中のメディアもね。

こういう考え方をしている人はマーケットには少ないと思う。だから株や為替の動きはそんなに素直に行かないと思う。短期的な動きについては引き続きちょこちょこコメントするし、ポジションも動かす予定。前にも書いたけど、

「オイラは、資本主義は破綻すると思ってるけど、しないで欲しいと願っている。だから最後の1秒が来るまでディールし続ける。破綻した時、お金には価値がない訳で、ディールが上手くいってようが、いまいが関係ないからね。」



*1 「リーマンショック」(JGB独り言 2014年7月16日「リーマンショックの定義」参照)

Grepedia: 「リーマンショック」
2008年9月15日に米国大手証券会社(当時世界第4位)であるリーマンブラザーズ証券がチャプター11を申請し、実質的に破綻した。その影響でリーマンをカウンターパーティーとしたデリバティブ取引が履行不能になり、多くの金融機関が取引のカバー(復元)に走った。その影響で世界中の金融市場が乱高下を繰り返し、株、為替、債券、オンバランス、オフバランスともにボラティリティ―が急上昇した。ボラティリティ―の急上昇は投機資金のみならず、世界的な投資資金の総すくみ状態を生み、信用創造の源泉であるレバレッジが急低下した。簡単にいえば銀行が金を貸さなくなったという事である。この影響から世界各国で経済の急縮小が発生し数年間に及ぶ世界経済の長期低迷をもたらした。

この現象を総称して「リーマンショック」と言うが、厳密には「リーマンショックを起因とする金融システム不安が巻き起こした世界経済のスラック」という表現が正しい。

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